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市町村合併による東濃市構想(案)

 国は市町村合併を促すために法律を整備し、財政的な支援策を決定した。これを受けて、県は市町村合併の枠組みを例示し、人的・財政的支援策を決定した。

その中で国は、財政的支援となる合併特例債の期限を、2,005年3月31日までと決定した。このことにより、合併の事務的手続きには約2年間を要するため、合併の実現に向けて市町村間の住民合意を得るために使える期間は、余すところ2年を切った。

 県が県全域と東濃西部地域に対して行った2種類のアンケートによれば、首長、議員、住民のいずれもが市町村合併の必要性を認めている。しかし現段階では各自治体間での合併の是非を含めた議論が活発に行われているとは言えない。これは国・県・各自治体ともに行政側が合併推進の主導権を取っていないことが原因である。行政側の主張は合併後にどのような「まち」を創るのかを含めて、合併の是非を住民自ら政治的に決めるべきだ、というものである。

 そこで、我々は住民の立場から合併是非の議論を活性化し、合併を現実のものにするために「市町村合併による東濃市構想」を提案する。

1. 市町村合併の必要性

 西欧へのキャッチアップを果たし、バブルと失われた10年を経た現在、市町村合併は自治体にとって避けて通れない課題である。その理由はおおよそ次の3点である。

第1は国家財政の破綻である。現在、国と地方の債務合計は約666兆円にまで累積している。その状況下で、国の税収が約50兆の今、国債を約30兆発行して国家予算を約85兆とし、その2割に相当する約18兆が借金の返済に充てられる状態(02年度予算概算要求)は、国家財政が殆んど破局状態(宮澤前財務大臣)であると言ってよい。低成長下において大幅な税収増を望めない今後、国は地方自治体への財政的支援を削減せざるを得ない。

一方、地方自治体も同様で財政力指数が低く経常収支比率の高い自治体は、財政的に自立することが難しく、今後国や県の管理下に置かれる可能性がある。管理下にある自治体は新たな事業に着手できず、事務備品の購入にも国や県の許可が必要である。この状態はもはや自治体ではない。したがって自治体は国の援助がない状態で経済的かつ行政的に自立する方策を考えなければならない。しかし単独で十分自立できる自治体は東濃に見当たらないのが実情である。

 第2の理由は現在の自治体単位が既に非効率的になってしまったことである。今の自治体単位が作られたのは、約50年前で、昭和の大合併と呼ばれた時である。その単位は各自治体で中学校が存立できること、つまり生徒が自転車で通学ができ、必要な教師を財政的に賄えることを根拠として作られた。しかし、その後の社会資本や交通手段の発達、及び居住形態やライフスタイルの著しい変遷、また少子高齢化に向かう今後の社会状況を考えたとき、50年前に創られた自治体の単位は、もはやその根拠を失っており実情に合わない。

 さらに、自治体が多数存在する状態は、自治体の大小に拘わらず義務的経費に携わる職員と財源が自治体の数だけ累加され、人口の増加に比例してスケールメリットの原理が働かず非効率的である。しかも自治体間の横並び主義に基づく箱物行政は財政を益々圧迫し、特徴のない画一的な街の景観を創出している。

 第3の理由は政策立案能力の欠如である。自治体の職員数は人口に比例して上限が国から制約されている。このことは、小規模自治体が少ない職員しか雇用できず、義務的経費に携わる職員以外の、政策立案に携わるための職員を雇用することが出来ないことを意味している。

行政は従来型の右肩上がりの経済を前提としたバラマキ型の公共サービスが出来なくなった。その一方で、国際化・規制緩和・少子高齢化・男女参画社会化・情報化など、価値観の多様化から生まれる様々な住民のニーズに応えなければならない。しかし、現在の小規模な単位の自治体では、これらのニーズに対応できる政策立案部門を確立することは極めて難しい。

2.東濃市構想の提案

地方分権が本格化し、都市間競争が始まろうとする時、合併後に創出される自治体は、地理的・社会的・経済的・行政的に自立した一つのまとまりのある自治体でなければならない。そこで、これらの条件を満足することを目的とした東濃市構想を提案する。

合併によって創出される東濃市は、多治見市、土岐市、瑞浪市、笠原町、および可児市、御嵩町、兼山町の4市3町を合わせた人口約33万人の中核市である。合併のスケジュールとして、7市町を一挙に合併することは難しい面もあり、現実的には可能な自治体から合併活動を開始することになる。東濃市構想は次の3点において合理性があり、住民が希望と誇りを持てる都市の創造と「まちづくり」が可能になる。

まず第1に、東濃市は地理的・歴史的・文化的に一つのまとまりのある基盤を共有している。すなわち東濃市は地理的に木曽川以南のまとまった丘陵地からなり、中央に首都機能移転先の候補地がある。また、歴史的には400年前の桃山時代に金山城主の森忠政が治めた地域としての共通性を持ち、文化的には桃山陶を中心とした陶磁器文化と古田織部の思想をコンセプトとした安土桃山文化を共有している。

第2に、東濃市は経済的・社会的・教育的にも単一の自治体としてまとまりやすい合理的な基盤を共有している。つまり、東濃市は地区内に広く分布する窯業の企画、技術、生産、流通及びシェアーなどのノウハウや情報を共有することが可能であり、それぞれの伝統や情報を加工して、時代に合った産業の戦略・戦術を立案し、新しい地場産業を構築することができる。また、人口33万人の自治体から出現する大学生の数により、東濃市のための大学を創設することができる。この大学は自治体と地場産業のシンクタンクの機能を持ち、人材を育成すると共に、各地区の財産である歴史、文化、伝統を学び研究する地域教育機関としての機能も持つことができる。

第3に、東濃市は現在の自治体が抱える様々な行政的な問題点を解決することができる。すなわち、中核市を形成し地方分権の受け皿を作ることは、人心を一新し、現在と未来の社会変化に対応可能な、新しい「まちづくり」に着手することができる。そして、シンクタンクの機能を持った大学の協力と、政策立案能力に優れた職員の雇用できることで、戦略的な自治体に変わることができる。これにより、まず東濃市は今後ますます多様化する市民ニーズに対応が可能となり、住民満足度を高めることができる。また、経済成長に見合う市税収入の予測に基づいた自治体経営の方向性が明確となり、かつ類似する箱物建設などの2重投資回避や、既存社会資本の共有化によって非効率的行政を解消することができる。

このような自治体経営方法は、現在各自治体が危惧している財政力指数と経常収支比率、及び起債制限比率を大きく改善するものと期待できる。

以上のように、東濃市は共有する財産や機能を基盤として、合併による人口と産業のスケールメリットにより、大学を創設し政策立案能力に優れた自治体職員を雇用することによって自治体を戦略化し、地方分権・都市間競争時代の多様なニーズに対応しつつ市民の満足度を高め、財政を健全化し、総合的・有機的・戦略的な自治体経営ができるようになる。

3. 東濃市構想のメリットとディメリット

 数値指標による定量的な市町村合併の得失は、今後各自治体間で設置されるであろう合併協議会・事務局の仕事である。ここでは東濃市構想のメリットとディメリットを定性的に箇条書きする。

(1) メリット 

@ 県と東濃圏域でのアンケートにおいて、住民は合併を望んでおり、市町村合併は住民の要望に応えるものである。

A 合併により、水道料金、下水道整備、児童・老人福祉サービスなどの行政サービスの水準は下位市が上位市に向上し、住民の負担は高負担市が低負担市の水準に是正される。

B 33万人の東濃市は、美術館や博物館など住民の多種多様な小さなニーズをスケールメリット化し、従来では出来なかったサービスの供給を可能にし、住民満足度を高めることができる。

C 道路などの遅れている社会資本整備を整備し、自治体間の行政サービス不均衡を是正するため、国から多額の合併特例債を受けることが出来る。

D 大学生の出現率から、都市間競争時代のシンクタンクと人材育成の機能を担う地元のための役に立つ大学を創ることが可能となる。

E 土岐郡の陶磁器産業・文化や市民参加型行政と、可児郡の工業生産力や財政力が、お互いに補完し合う潜在能力を持っている。

F 国の首都機能移転先の有力候補地は東濃市の中心にあり、首都機能誘致が大変有利となる。

G 東濃市は人口30万以上の中核市に該当し、地方分権により都市計画や福祉計画などの権限が付与され、かつ政策立案部門の職員や専門職などのエキスパートが雇用できることで、新しい自治体の戦略を立案することが可能となる。

H 東濃市は競合している各種の施設、例えば4つの陶磁器関係研究所などを統廃合し、合理化と戦略化により再構築が可能となる。

I 東濃市は広域行政の欠陥である責任所在の曖昧さや、意思決定速度の遅さ又は決定回避を是正することが出来る。

(2) ディメリットと対策 

@合併により、各地域のアイデンティティーが失われ、コミュニティが形成し難くなる。しかし、これは過去の明治と昭和の大合併の経験に照らせば杞憂に過ぎない。むしろ現状は横並び主義に基づく画一的な都会化が進行し財政を圧迫している。東濃市は政策立案能力の向上で個性的な「まちづくり」が可能であり、ITなどの情報社会資本整備により住民間の緊密なコミュニティ形成が可能となる。

A市役所が地理的に遠くなって不便になり、住民の意見が行政に反映され難くなって、住民に密着した行政サービスが希薄になる。この対策は多治見・笠原で進めているテレトピア構想(コミュニティ支援・施設管理・保健福祉医療ネットワーク・地理情報・災害リモートセンシングなどのシステム)と多目的ICカードの導入により、行政サービスが双方向で可能となり、住民は多種多様でより密な行政サービスを享受することができる。またパブリックコメント制度の導入と地区懇談会の頻繁な開催により、住民の意見が十分反映された行政が可能となる。

B合併は各論で利害が発生する可能性があり、過去に合併で感情的しこりが残った経緯もある。残念ながら制度の変更に利害は付き物である。しかし害があるから何もしないことが許される状況は過ぎた。自治体間と利害関係者の格差を是正し、害が避けられないものに対しては合併特例債により救済する。

C東濃市は衆議院の選挙区が2つに跨っており、県の行政管轄が2つに跨っている。しかし国は例え県を跨いでも合併を奨励しており、県は合併が道州制へ移行する一里塚と位置付けている。したがって東濃市は国や県が支援することがあっても拒否する理由はない。

4. 市町村合併の実現に向けて

 合併の実現は利害調整型行政に決別し、理念型行政を断行できるか否かに成否が掛っている。住民の協力により理念型の行政が実現できれば、制度変更に伴う「痛み」は殆ど解消される。しかし、合併には次の恐怖や不安に基づく抵抗行動が必ず発生する。すなわち、首長や議員などの政治家は自らのポストを失うかもしれないという恐怖、自治体職員は自らの職場がリストラされるのではないかという危惧、既得権者は自らの特権を喪失するのではないかという懸念、そして住民は役所が遠くなり、毎日の生活が不便になるのではないかという不安である。

 それぞれの立場からあらゆる抵抗が試みられるものと予測される。しかし利害調整型行政の結末が現状であることを考慮すれば、個々の不安や恐怖を乗り越えなければ理念型の行政は永久にできない。合併の成否は政治家が握っている。合併を望む住民は政治家を支援し包囲する必要がある。そして自治体職員や既得権者及び住民は、それぞれ過去のしがらみを断ち切る覚悟が必要である。

この度の合併が成功しなければ、東濃の分厘貫の気質を変え、東濃の正義を確立する最大のチャンスを逸することになる。

東濃のあらゆる住民の協力のもとに、過去のしがらみを捨て、新しい希望の持てる理念型の東濃市を創ろうではないか。


                                             多治見市議会議員   中道育夫                                                 

 
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