このページを印刷する 戻る
 

 

平成16年7月20日

「ふれあいセンターわきのしま」運営委員会 各位

運営委員 中道育夫

「ふれあいセンターわきのしま」の活動方向について(提案)

1.まえがき

 本年4月、NPOの余剰金に法人税を課すことの是非が争われた「流山裁判」の一審判決で、原告側のNPOが全面敗訴したことから、「有償ボランティア」の是非が議論されるようになりました。このため、私たちの「ふれあいセンターわきのしま」(以下、単にセンターという)の運営委員会でも、今後の事業展開を検討する際、有償ボランティア是非の問題を避けて通るわけにはいかなくなりました。

原告側は判決後ただちに東京高等裁判所に控訴しましたが、日本の現法体系はボランティア活動を想定して作られていないことから法解釈が難しく、早期の結審が期待できません。また、ボランティア活動のための新法の制定も時間がかかりそうです。

しかしながら、そのために当面センターの事業を無償ボランティア活動に限定することは、センターの活動を著しく矮小化することになり、2,300世帯、約8,300人の住民の様々なニーズに応えられないばかりか、センター内の地域福祉協議会が実施を予定している公的介護保険事業の位置づけも難しいものにしてしまいます。

そこで、有償ボランティアの是非が定説になるまで、または法的に決定されるまで、現在の法律に抵触しない範囲内で、センターが地域の特性に見合った新しい概念である「コミュニティー・サービス」を供給することを、私は提案いたします。

本文は、センター活動の今後の方向を探りつつ、各事業の円滑な運営をスタートさせるために、流山裁判の概要、ボランティアの概念、いわゆる「ふれあい事業」と「34区ホワイトタウン自治会補助機関としてのセンター事業」との違い、及び今後のセンター活動の方向、特に「コミュニティー・サービス」の供給ついて、基本的な考え方を取りまとめたものです。

2.流山裁判の概要

@ 経緯

平成13年12月  松戸税務署長は、「さわやか福祉の会・流山ユー・アイネット」(以下、単にNPOという)米山孝平代表に対し、「ふれあい事業」から生じた平成12年度の余剰金約227万円に、法人税を課する更正処分を行なった。

平成14年8月  米山代表は堀田力(財団法人さわやか福祉財団・理事長)を弁護人として、松戸税務署長の更正処分を不服とし、千葉地方裁判所に提訴した。

平成16年4月2日 千葉地方裁判所(山内博裁判官)は、米山代表の請求を棄却し、訴訟費用は原告が全面的に負担せよとの判決を下した。

同  8日 米山代表は判決を不服として、東京高等裁判所に控訴した。

平成16年5月27日 堀田弁護士は東京高裁に控訴理由書を提出した。

平成16年7月5日  東京高裁で第1回口頭弁論が行われた。

A 争点 

・  裁判所の主張  「ふれあい事業」の余剰金は、法人税上「請負業」の収益に該当する。

・  米山代表の主張  余剰金は労働の対価ではなく、ボランティア活動の謝礼金である。活動の時間単価は最低賃金より低い600円とし、謝礼の意を表わしている。

B 判決が意味するもの

・ 有償ボランティア事業を収益事業の「請負業」と認定することは、ボランティアの善意を否定し、平成5年に旧厚生省が告示で推奨した「会員制、互酬制及び有償性」を特色とした「住民参加型互酬ボランティア」活動をも否定することにつながります。

・ 「請負業」と認定することは、法人税とは別に労働基準法、職業安定法、労働者派遣法、最低賃金法にも抵触する可能性が生じますが、判決がNPOとボランティアは雇用関係にはない、としたことから上記の各労働法には抵触しない可能性も考えられます。

C 今後の展開

 現法体系がボランティア活動を想定して作られていないため、判決では該当する適切な税法上の業種が見当たりませんが、国がNPOの余剰金にまで課税しようとした背景には、財政が逼迫していることが推察できます。これに対しNPOは、国が地方分権、少子高齢化、価値観の多様化の時代に住民と行政の協働を推奨していることを受けて、善意に基づく積極的な活動を展開していますが、国がこの活動に対し課税することに大きな異議を唱えています。

両者が合意するためには、法律の解釈を大幅に緩和するか、または新たにボランティアへの謝礼規定を含む「ボランティア振興基本法(米国のスタイペンドなど)」を立法化するしか方法がないと考えますが、いずれにしてもこの問題の解決には時間がかかりそうです。

3.ボランティアの概念

 「ボランティア」の語源は、ラテン語の「自由意志で決意する」だそうです。また定義は、「人や社会のために問題解決に取り組む自発的で無償の活動」であり、その行為は「義務ではない自由意志に基づく責任を伴った活動」であるとされています。また、ボランティア活動は町内会等の役割分担でもなく、サークル活動でもアルバイトでもない、ともされています。

4.ふれあい事業

 「ふれあい事業」とは、さわやか福祉財団(前述)が提唱する「新しいふれあい社会づくり」の事業です。「新しいふれあい社会」とは、人が生まれつき持っているやさしさを素直に出し合い、それぞれの人が自分を大切にしながら、ふれあい、助け合う、生き生きとした社会です。

その社会を創るためには、「個人の精神的な自立」と「企業等も含めた地域市民による共助」、及び「行政と民間の有機的な連携」が必要であるとされています。そして、日本の将来の幸せづくりの鍵は、ボランティア活動がどれだけ市民の間に広がるかにかかっているとして、さわやか福祉財団は全国でボランティア団体の設立を進めています。

 裁判の原告である前述のNPOは、さわやか福祉財団の会員という立場で、「助け合いふれあい活動」、「公的介護保険活動」、「行政からの受託活動」、「ファミリーサポートセンター活動」などの事業を実施しています。私たちのセンター活動と同様な「助け合いふれあい活動」としては、高齢者を対象にした家事援助(調理、買い物、掃除、洗濯、話し相手など)と、身体的な介助・介護(食事、通院、入浴、排泄、散歩、車椅子介助、産前産後の手伝いなど)を実施しています。

サービスを提供、または利用する人はNPOに会員登録する必要があり、入会金が1,000円、年会費が3,000円です。サービスに対する謝礼金は1時間600円で、その他に運営費が1時間200円、交通費が一律200円です。それぞれのお金は30分を1点とした点数チケット(ふれあい切符という地域通貨)で清算され、運営費の1時間200円(2点)は利用者がNPOへ寄付する形となっています。千葉県の平成15年度最低賃金額は1時間677円ですが、NPOは謝礼金という性格を明確にするため、1時間につき600円を設定したようです。

謝礼金制度を採用したのは、サービスを受ける人が多少でも謝礼を払ったほうが気兼ねなく利用でき、かつ対等な関係を確保でき、しかも事業を継続することが容易になるという理由からだそうです。そして、サービスを提供する人はお金が欲しくてやっているのではない、少なくとも生活の糧にはしていないことを示すために、お金の清算は「ふれあいチケット」という地域通貨で行なっています。

このNPOは課税対象年の平成12年度で、会員が641名(現在約900名)、役員は10名で無償、事務局員(コーディネーター)は7名で謝礼金だけで調整活動を行なっています。

なお、平成7年に労働基準局から勧告があり、家事援助を行う有償ボランティア活動は職業安定法(無許可職業紹介)に抵触するとの指摘がありました。しかし、「さわやか福祉財団」は旧労働省との折衝で、家政婦や職業ヘルパーの平均給与の5分の4以下の額が報酬ではなく謝礼とみなし、違反ではないとの見解を引き出しました。この見解をもとに、「さわやか福祉財団」は全国の団体に対して、会員に対する謝礼金を最低賃金以下にするようにアドバイスしたそうです。

5.「ふれあい事業」と私たちの「センター事業」との違い

 「ふれあい事業」は主に高齢者を対象としたNPOの活動であり、地域を限定しない善意の活動です。このNPOはサービスの種類を限定しつつ、需要と供給のマーケットを全市に拡大して、活動資金を確保し、事業の継続性を保持しようと努力しています。

一方、私たちのセンターは、地域を34区ホワイトタウン自治会内と限定した地縁団体の補助機関です。このため、自治会が将来地域自治組織への移行を想定し、地域内で発生する住民の全てのニーズに応えようとすると、資格や専門性を必要とする様々なサービスを供給する必要が生じると予想されます。そうすると、無償のボランティア活動だけでは住民のニーズに応えられないことは明らかであります。

また自治会の総会などで、センターの設立により派生するメリットとして、地域内に雇用が発生するとの説明を行っています。たとえば、子育てを終えた主婦が子どもの学費の足しにしようとするアルバイト、定年退職した住民が自らの特殊技術を活用し余暇費用の足しにしようとするアルバイトなどであり、このような雇用が発生することを、34区内の住民に予告しています。さらに、自治会は駐車場経営という収益事業を既に行なっており、収益に対する税金を納入して来ました。なお、多治見市は自治会等の地縁団体が収益事業を行なうことを認めてはいますが、収益を役員で分配することは認めていません。

6.センター活動の方向について

 私は少子高齢化、経済の低迷、地方分権、自治体財政の逼迫という諸条件のなかで、住民が安心して暮らして行くためには、住民と行政の協働が重要な役割を担うと考えています。

この協働という住民参加の方法には、基本的に2つの種類があると思います。

1つは、善意のボランティアがNPOを組織し、全国的に、または全市的に活動を展開する方法で、例えば、さわやか福祉財団や流山ユー・アイネットなどの活動がこれにあたります。

もう一つは、自治会が将来の地域自治組織を想定して地縁団体を設立し、地域内住民の身近で様々なニーズを身近な住民が供給するという仕組みを作り、受益と負担が明確となるようなシステムを構築することです。このシステムは将来近隣自治政府に移行する可能性を持つものと考えています。

この2種類の住民参加の方法のうち、私たちセンターの活動方向はどちらが適しているのでしょうか。少なくとも地域の特性を考慮すれば、善意だけに依存し善意がなくなれば消滅する可能性のあるボランティア活動のみでは、34区の住民は将来も安心して暮らし続けることができません。このため私たちセンターの事業は、個々の善意を住民全体の信頼のシステムに統合して立ち上げることが重要であり、身近で発生する住民ニーズを身近な住民が供給できる恒久的なシステムを、私たちの手で構築した方が良いと考えています。そしてセンターの活動は、無償のボランティア活動のみにこだわらず、原則として最低賃金程度の報酬を前提としたコミュニティー・サービス(有償ボランティアの名称を使用しない)を供給し、税金問題や各種法的な問題に対しても、前向きに対処した方が良いと考えています。

ただし、センターは住民個人のボランティア活動や、全市的に展開されているNPO等の活動を妨害または制約するものであってはいけません。また、住民に供給するコミュニティー・サービスの種類によっては、当然無償でサービスを供給することもあり得ると考えています。

7.あとがき

 私の提案は、この度の「流山裁判」の判決を契機とした「有償ボランティア」是非の議論により、行政上の定義が確定するのを待ってセンターの事業を決めるのではなく、将来地域自治組織または近隣自治政府への移行をも想定しつつ、地域住民が必要とする様々なコミュニティー・サービスを積極的に供給する善意と信頼のシステムを、住民の自治により構築しようとするものです。各種コミュニティー・サービスの内容や報酬、及び運用規定や法的な問題等は、今後運営委員会の皆様と検討して行きたいと考えています。

以上

 

      1つ前に戻る
Google