市民投票条例・反対討論
市民クラブの中道です。私は「議第76号多治見市が瑞浪市、土岐市及び土岐郡笠原町と合併することについて市民の意思を問う市民投票条例」に対し、反対の討論を行います。
初めに、私は合併の是非を住民に問うことについては全く異存のないところであり、2年前から自らのホームページでも、住民投票条例と自治体基本条例制定の必要性を公表し、訴えて参りました。
したがって、この度「住民投票条例の制定を求める市民有志の会」の要望書に署名された8,090名の皆様、また「住民投票を実現させる市民の会」の要望事項に署名された789名の皆様、さらには「30区と南姫合併を考える会」の陳情書に署名された2,925名の皆様の、合わせて11,804名の市民の皆様が、署名によって表明された「合併の是非について直接参加したい」という要望は、非常に重く受け止めている次第でございます。
さて、私自身も多治見市のあるべき姿として訴え掲げてきた住民投票条例ではありますが、この度、西寺市長が提案された「市民投票条例」は、去る8月20日東濃西部合併協議会の決定によって、その持つ意味も大きく変化しました。つまり、合併協議会が投票方式の意向調査を3市1町統一で実施すると決定したことは、西寺市長が選挙戦で公約された多治見市単独の住民投票条例の意味を大きく変えることになったのであります。
と申しますのは、合併協議会が決定した意向調査は名称が調査となっていますが、住民投票そのものだからであります。このため、多治見市民はわざわざ住民投票条例を制定しなくとも、合併の是非について、自らの意思を投票行為によって表明することが可能になりました。住民投票条例制定に関し、今年の4月の統一地方選挙以降の8月20日に、このような大きな状況の変化があったことを、まず、認識する必要があります。
それでは、この度、西寺市長が提案された市民投票条例に反対する論拠を、合併協議会の意向調査と対比しながら、以下の8点にわたって述べます。
まず第1に、市民投票条例は憲法違反の可能性があります。
憲法第94条は地方公共団体が法律の範囲を超えて条例を制定することはできないと規定しています。いわゆる合併特例法に則って設置された東濃西部合併協議会は、8月20日、前述したように住民の投票による意向調査の実施を決定いたしました。
この意向調査の選択肢は、合併に賛成と反対、及びどちらとも言えない、の3つであります。これに対し、議第76号の市民投票条例は、選択肢を合併に賛成と反対の2つとしています。
意向調査も市民投票も、それぞれの条文で住民の意向を確認するために投票を行うと謳っており、目的と投票行為は同じであります。目的と投票行為が同じであるにも拘らず、住民の意向を確認する選択肢は、両者では3択と2択と異なっています。これは市民投票条例が合併特例法に定められた範囲を逸脱しています。
したがって、午前中の会議で水野由之議員から、合併問題調査特別委員会の委員長報告に対し、「全国で行われている住民投票も憲法違反と考えているのか」との質問がありましたが、今述べましたように、私は合併特例法に則った東濃西部合併協議会の決定と、今回の条例が整合していないと主張しています。このため、議第76号の市民投票条例のみが憲法に違反していると考えています。また、委員長から「本条例は憲法に違反していない」という執行部の見解が紹介されましたが、それは見解の相違であり、私は次のように考えています。
本条例が法律の範囲を逸脱しているか否について、国の総務省と全国議長会及び岐阜県に問い合わせたところ、岐阜県の市町村課から回答がありました。答えは「岐阜県としては判断ができない。しかも、この件については、裁判所でないと判断できないだろう」という回答でありました。行政側が「判断できない」ということは、この件が限りなく黒、つまり憲法違反に近いことを示しています。
よって私は、この市民投票条例が合併特例法の範囲を逸脱しているため、憲法第94条に抵触していると考えています。
第2に、市民投票条例には大きな不備があります。
今述べましたように意向調査の選択肢は3つで、市民投票の選択肢は2つです。両者の投票は同日に実施することが決まっています。では、意向調査で「どちらとも言えない」に投票された住民は、市民投票において賛成と反対のどちらに投票することになるのでしょうか。
同一人物が同一の問いに対して意思表示を行うにも拘らず、回答の設定の仕方が異なるため、異なる意思表示をしなければならないという大変不合理な状況が発生いたします。
さらに、予測できることは、両者の得票数で賛成の得票と反対の得票が拮抗した場合、意向調査で「どちらとも言えない」に投票した市民の票の行方によっては、同じ多治見市民が投票しているにも拘らず、意向調査の結果と市民投票の結果が相反するものになる可能性も大いにあります。しかも条例には、こうした場合の対処の仕方が全く明記されていません。この不備は大変大きな混乱を引き起こす、と私は考えます。
第3に、市民投票条例は市民に無駄な負担を強います。
ご承知のように、合併協議会の意向調査は実施することが既に決定されています。その内容は3市1町毎のそれぞれの投票結果が明らかにされるため、敢えて、多治見市が単独で市民投票を実施しなければならないような不備はありません。
一方、今回提案されました市民投票条例は、このような意向調査に加え、さらに不合理な形で市民の意思を確認するためのものです。このことは、市民に疑問を持たせると共に、同じ目的のための投票行為を2度も強いることであり、また、そのために必要な約190万円の経費を2重に掛けることになります。これらは全く無駄な労力と経費であります。
第4に、投票結果尊重義務は、条文上、意向調査も市民投票も同じであります。
さて、結果の取り扱いについて、条文を比較いたしますと、意向調査の要綱にも、市民投票の条例にも、投票結果について各機関を拘束する条文はありません。また尊重しなかった場合の罰則規定もありません。その意味において、両者の条文上の尊重義務の軽重はありません。
第5に、投票結果尊重義務は、手続き上、意向調査も市民投票も同じであります。
結果に対する尊重義務について、意向調査は「結果を尊重して合併協議を行う」と規定しているのに対し、市民投票は「市長と議会は結果を尊重しなければならない」、と規定しています。これは結果を尊重する機関が単に異なることを示しています。
それでは、合併の是非が決定されるまでの手続きを申し上げますと、まず初めに、合併協議会が意向調査の結果を尊重し、合併の是非に関する方向性を協議し確認を行います。
次の段階として、3市1町の首長は合併を調印するか否かの時点で、合併協議会の確認事項を受け入れるか否かを、それぞれ決断いたします。その後、決断した首長はそれぞれの議会に合併是非に関する議案を提出します。最後に、各議会の議員は提出された議案の合併の是非について、それぞれ決断するという過程をたどります。
これらの手続きからも明らかのように、合併の是非の決定は、@合併協議会の確認作業、A各首長の判断、B各議会の決定となっています。ですから、合併協議会が合併の是非について合意や確認をしたからと言って、市長や議会が判断しなくても良いということにはならないのです。繰り返しますが、両者は結果を尊重する機関が異なりますが、尊重義務履行上の軽重はありません。
第6に、道義的には、意向調査の方が市民投票よりも重みがあります。
巷では、市民投票と意向調査を比較し、市民投票が意向調査よりも重いとする意見があるようですが、今述べたような論拠により、尊重義務は条文上も履行上も両者に軽重がないと考えます。
ところが、他の2市1町に対する道義的な責任において考えた時はどうなるのでしょうか。道義的には、一般市民をも交えて対外的に協議を進めてきた合併協議会の意向調査の方が、より重みがあると、私は受け止めています。
第7に、意向調査は多治見市民の意向を確認でき、さらに他の2市1町住民の意向をも確認できます。
市長と議会が投票結果を尊重し、合併の是非を判断する際、意向調査においては、他の2市1町住民の意向をも参考にすることができます。一方、多治見市単独の市民投票では、合併協議会の確認事項を参考にすることができません。3市1町の合併に関する判断は、相手のあることですから、意向調査での多治見市民の意思を十二分に尊重することは勿論でありますが、さらに他市住民の意向をも考慮した上で、合併の是非について決断する事が望ましいのではないでしょうか。
よく市町村合併は地方自治体同士の結婚に例えられますが、相手の意向をも確認しないで合併の是非を決断するのは、はなはだ乱暴です。その点、意向調査は十分にその機能を備えているものと考えます。
第8に、やはり、合併の是非を問う住民投票は、3市1町が足並みを揃えるべきです。
合併が実現して新市ができるか否かは、3市1町の住民による投票の結果次第であります。これだけ重要な意向調査は、3市1町の調査精度を揃えるという意味においても、また新市住民が公平な立場でなるべく早く融和を図るという意味においても、同一の方法で投票を行うべきだと、私は考えています。
以上の8点が、私が市民投票条例に反対する論拠であります。
それでは、来年の1月25日に実施予定の合併協議会の意向調査に、問題はないのかと問われると、私には2つの懸念する事柄があります。それは意向調査での投票率と、現時点で「どちらとも言えない」の得票に対する取り扱いが明確になっていないという点であります。
この度、署名された11,804名の市民の皆様が心配しておられる事は、市民の意向が首長や議会の決定に十分反映されるのだろうか、という事であろうと推察しております。ですから、この市民の不安は必ず払拭する必要があります。
意向調査の結果が適正に取り扱われないのではないか、と市民が不安を持つ主な要因は、やはり各市町の投票率が低い場合と、合併に賛成と反対、及びどちらとも言えないの3つの選択肢のうち、どちらとも言えないの得票数が占める割合であります。
以下、それぞれに対する懸念事項と対策について述べます。
まず、低投票率に対する取り扱いですが、意向調査は投票率に拘わらず結果を公表することが、既に決定されています。このため、例えば、投票率が30%以下の場合でも、賛成か反対のどちらか多い方を、機械的に合併協議会の合意事項とする、それで良いのか、という当然の疑問が湧いて来ます。
投票率に関しては、瑞浪の高嶋市長は50%以上とすることが望ましい、土岐の塚本市長は50%をはるかに超えることを望むと、それぞれ市議会で答弁しておられます。その点、西寺市長はこの件について言及しておられませんので、どのような考えと意思をお持ちなのかが判りません。是非とも、多治見市長としての見解も明らかにしていただきたいと思います。
私は合併が市民の生活に直接関係する事柄ゆえに、市長選挙や市議会議員選挙並みの投票率を期待しています。そして、この投票率を上昇させる作業は行政の仕事であると考えています。もし投票率が低いため、合併の是非について判断が難しくなった場合、それは行政の責任と言って間違いのないことだと思います。
もう1つの懸念される事柄は、賛成、反対、どちらとも言えない、の3つの選択肢のうち、どちらとも言えないの得票数が最も多かった場合です。このケースは多いにあり得るケースであります。しかしそれでも、賛成か反対のどちらか多い方を、機械的に合併協議会の合意事項とする、それで良いのか、という当然の疑問が湧いて来ます。
どちらとも言えないに投票した市民は、合併に賛成か反対かの判断がつかないからです。これは合併した場合と合併しない場合について、行政が提供する情報の質と量が不足していることが原因です。ですから、どちらとも言えないの得票数が多く、合併是非の判断が難しくなった場合も、やはり行政の責任であると考えています。
合併に賛成の立場や反対の立場の市民が活発に運動し、それぞれの得票数を伸ばすのは、それぞれの立場の市民です。しかし、投票率自体を上昇させ、どちらとも言えないの得票数を限りなく減少させ、合併是非の判断を行いやすくする責務は、行政にあるのです。
結論ですが、来年の1月25日の投票日までに、行政の努力によって意向調査の投票率を上昇させ、どちらとも言えないの得票数を減少することができれば、民意と政治家の決定がすれ違うことは決してないと、私は確信しています。
しかしながら、この件に関する一般質問での吉田企画部長の答弁は、次のようなものでした。部長は合併問題の広報活動について、今後、多治見市独自のシンポジュームを開催し、11月の広報誌で合併の特集を発行し、また市民から要望があれば「お届けセミナー」を開催する予定であると述べられ、自らのノルマを達成すれば済むような醒めた答弁をされました。
昨日の夜、私は笠原町の富士地区で開催された合併説明会を傍聴させて頂きました。説明会は立派な2冊の資料を駆使しながら熱の籠もった説明がなされました。説明会は全部で11回開かれる予定です。
笠原町は人口が約1万2千人、職員が約140名と、いずれも多治見市の約10分の1強の規模の町ですが、合併説明会の回数、資料の内容、及び説明の仕方を、多治見市のものと比較しますと、いずれも勝るとも劣らないものであります。
意向調査の投票実施までの残り4ヶ月間、私は企画部長が答弁された活動だけでは極めて不十分であり、執行部の姿勢にも問題があると考えています。行政がある種の長期計画を発表するのならば、この程度の活動で良いのでしょうが、合併是非の判断は多治見市の将来を決定付ける重要な事柄であります。2度とやり直しができないのであります。
市民に周知する姿勢としては従来の広報活動という姿勢ではなく、徹底して宣伝するという姿勢で臨み実行していただきたい。
少なくとも広報誌とは別に、次の点を市民に知らせる工夫をしていただきたい。合併した場合と合併しない場合の行政サービスの違い、財政の推計、そして多治見市が財政力の低い所や借金の多い所、さらに高齢化率の高い所や都市基盤整備の遅れている所と、合併してもなおメリットがあることなどを、判りやすく示した詳細な資料を、全戸配布して下さい。
そして、住民説明会では市民の執拗な質問から目を背けるのではなく、行政の責任として正面から受け止め、親切丁寧に答えることが何より重要です。そうしなければ、肝心な市民からの信頼を失うことになるでしょう。また、合併の問題が市民に直接関係があることや、1月25日には住民投票があることを、繰り返し繰り返し徹底して宣伝して下さい。
このような努力なしに意向調査の投票率を上げることはできないし、どちらとも言えないの得票の割合を限りなく少なくすることはできないと、私は考えます。そして私自身も、この事に関して、大いに努力し実行してゆく所存であります。
繰り返し申し上げますが、もし、投票率が低く、どちらとも言えないの得票が多いため、合併の是非の判断が難しくなった場合、それは全て行政の責任であります。
最後に、以上のような要望を行い、私の反対討論を終わります。